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カテゴリ: スペイン
カディスの夕陽(2003年)
Photograph by Wakako Takatsuki 長居したセビージャから南下してカディスに着いた。高校生の頃だったか『カディスの赤い星』を愛読したのが、ここに来たただひとつの理由だ。
観光局で地図をもらうと、ちょうどサンフランシスコと同じように三方を海に囲まれた街だと分かった。潮風が吹き、熱波のセビージャとは別世界だ。
夕方になると気温は30度を割り込み、夕涼みに出かける。町の中心を示す広場から商店街を練り歩いて15分。岸壁沿いの散歩道には釣竿を手にした男たちが地中海を見やる。言葉の通じない旅人を相手に、老人が釣り上げた小魚の口に指を入れて、誇らしいポーズをつくる。竿を投げ飛ばしては、ぼそぼそと口にする言葉は皆目分からない。釣りのコツを伝授してくれているのかもしれない。
半島の街の先端は漁港兼海水浴場だった。夜10時近くまで日が暮れないこの地では、まだまだ磯遊びまっただなかだ。海水浴場から海中に石造りの道が伸び、軍艦のシルエットをもつ要塞跡を結んでいる。夕陽色に染められた道を進んで、振り返るとカディスの街が海に浮かんで見えた。
スペイン語で話しかけられた。丸顔の若い男が何か言っている。ガールフレンドらしい女の子が「この街が気に入ったの?」と英語で言い直した。
住んでみたいぐらいだと答えると、丸顔が笑った。彼はカディスの歴史を語り始め、ガールフレンドが真剣な顔で訳してくれる。早口で一気に話すので、彼女が同時通訳者のようになる。フェニキア人、ローマ、ムーア人、レコンキスタといった単語が彼の口からほとばしる。
「君たちの先祖もその頃からカディスにいたのかい」
「きっとそうよ」と誇らしく言うふたりは弁護士と英文科の学生のカップルだった。僕らは旅に出て2週間経ち、はじめて同世代と会話らしい会話ができたことを喜んで、カディスでの暮らしや僕らの旅のことを語って、笑った。
「日暮れの少し前にここに来て、水に入り、海を見る。そんな暮らしがあるところよ」と彼女は言った。
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逢坂剛『カディスの赤い星』(Amazon.co.jp)
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