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カテゴリ: イラン
魚市場で(2003年)
Photograph by Wakako Takatsuki テヘランを発つ日は大雪になった。髭の紳士は夕方5時頃に迎えに来るとのこと。宿で時間を潰していると、夫婦で1年半も旅をしているエリさんがやって来て、神妙な顔をして言う。金持ちの***氏のことだけど、本当に大丈夫かな。止めたほうがいいんじゃない。
紳士の車で移動をするのは危ないと言う。なんでも、この宿に泊まっている大学生のタシタ君が、パキスタンで意気投合した金持ちと移動中に、殴打され、金品を奪われたというのだ。話が似すぎているのよね、余計な心配かもしれないけど、とエリさんは繰り返す。
そんなことを言われても、約束してしまったし、特に怪しげな人とも思えない。家にも行ったし、家族にも会った。
「タシタ君も同じだったって。金持ちだし、家も見たし、家族も会ったし、これは大丈夫って。でも、やられてるし。夜に車で移動するのは危険だと思うけどな。なんで朝出発しないの。暴漢に車を襲わせて、***氏も被害者になるように仕向けることだってできる。とにかく、相手がプロならなんでもできるのよ」
僕はエリさんの顔をまじまじと見てしまった。この人は、どんな辛い旅をして来たんだ、どんな人と会ってきたんだ。彼女が口にすることは、茶髪で割とあどけない顔とあまりに不釣合いだった。それでいて、全てを見抜いているようでもあった。彼女の言う通りかもしれない。親切な目にあったり、紳士の裕福さを見せられて、惑わされたのかもしれない。
「とりあえず今日は雪だから取り止めて、明日バスで行くって返事したら。それでも、***氏が、明日一緒に行こうとか言ってきたら、これは本当にヤバいわよ」
その通りに紳士に電話で告げると、彼はエリさんが予想した通りのことを言った。明日にしましょう、と。
結局、僕らは紳士とゴムに行かなかった。彼が善人なのか悪人なのかは分からずしまいだ。エリさんとの会話がなかったら、分かっていたはずだが、僕らはエリさんの言い分を選んだ。
考えてみれば、僕は長らく人の善悪なんか判断しない生活を送ってきたんだなあ、と思った。
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エリさんのホームページ「タビフーフ」
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